スティーブ・ジョブズに提案

米リアルネットワークスは、インターネットの音楽・映像(AV)再生ソフト大手だった。コンテンツ(情報の内容)配信の強化戦略が壁にぶつかった。

成長分野の音楽配信で大手の米アップル「iTunes(アイチューンズ)」との提携を模索したが、スティーブ・ジョブズ氏に拒否された。リアルの提案には、関連ソフトや技術でマイクロソフトをけん制する狙いもあった。

DRM(デジタル著作権管理)

問題になっているのは、ネット上での音楽データの不正交換などを制限する「DRM(デジタル著作権管理)」と呼ばれる技術だ。

リアルとアップルはともに音楽データの圧縮方式として「AAC」を採用するが、DRMはそれぞれ自社技術を採用する。このため、リアルのサービス利用者はiPodに音楽をダウンロードすることができない。グレイザー氏はアップルの『開放』を声高に訴え、DRM技術の標準化を求めた。

マイクロソフトのデータ圧縮方式に対抗

リアルがアップルの「援護」を求めた理由の一つは、マイクロソフトのデータ圧縮方式とDRM「WMA」の普及を抑えることにある。

WMAは新生ナップスターが採用するほか、マイクロソフトも年内に独自の音楽配信サービスを始める予定。リアルはアップルとの提携を通じて自社サービスの利用者を拡大するだけでなく、マイクロソフトに対抗できる「陣営」を確立しておきたいところだった。

リアルは近年、パソコンだけでなく携帯機器へのAV再生ソフト搭載を急ぐ一方で、音楽など有料コンテンツの自社ソフト経由の配信に事業の焦点をシフトさせてきた。仮にWMAを採用するハードメーカーやコンテンツ提供企業が増え続ければ、リアルが獲得してきた有料サービス利用者を奪う可能性も出てくる。

iPodのDRM技術

一方、アップルは人気の高いiPodのDRM技術を公表しない限り、特定の顧客を抱えこめるだけに「リアルとの提携によるメリットはない」(米調査会社ジュピター・リサーチ)との見方が強い。

グレイザー氏はジョブズ氏へのメールで、アップルが提携を拒否すれば「WMA」に乗り換える可能性をほのめかしたとされる。リアルは2003年12月、マイクロソフトを反トラスト法(米独禁法)で提訴した。ところが、最近ではサン・マイクロシステムズと和解するなどマイクロソフトの態度に軟化の兆しも生まれている。

グレイザー氏の「WMAへの乗り換え」発言には「リアルの深い迷いとフラストレーションが読みとれる」(チャンコ氏)との指摘もある。

音楽配信の種類

音楽配信サービス名 内容・特徴
iチューンズ・ミュージックストア(アップル) 50万曲以上 1曲99セント、アルバム1枚9.99ドル CD、携帯音楽プレーヤー「iPod」への複製可 販売曲数5千万曲(2004年3月半ば時点)
ラプソディー(リアルネット) 55万曲以上 無制限ダウンロード月額9.95ドル/4カ月で24.95ドル、CDへの複製は1曲79セント CD、携帯音楽プレーヤーへの複製可(楽曲によっては制限あり) 有料ネットラジオサービスを含めた有料音楽サービス加入者数45万人(2004年3月末時点)
リアルプレーヤー・ミュージックストア(リアルネット) 40万曲以上 1曲99セント、アルバム1枚9.99ドル~ CD、「パーム」などPDAや一部携帯音楽プレーヤーへの複製可